マイケル・サンデルのハーバード白熱教室 in JapanをiTunes U で見た

感想・レビュー

東京大学 – マイケル・サンデル「ハーバード白熱教室 in JAPAN」2010

以前より話しには聞いていた奴。iTunesで公開されていたから見てみた。
幾つかの感想はTwitterでつぶやいていたので、そのまとめと補足。

改めての感想

動画自体は、全部で3時間程度。第一回の導入部でしゃべり場っぽい雰囲気を乗り越えれば、そういうものだと受け入れられて見られるようになる。
逆に、しゃべり場っぽい雰囲気で諦めると二度と見ることができない動画だと思われる。こういうものを見る意志さえあれば、無料で見られるというのは良い世の中だなぁ

個人的には、難しい問題を分割せずに取り扱ったり、大切な前提が抜けているせいで問題がややこしく見えたりしているような気がする。
例えば、前半の第一テーマの船が難破してボートで遭難した4人が生き残るために一人を犠牲(ぶっちゃけ一人を殺してそいつを食べて生き残った)にしてもよいのかどうかという話。
問題を一纏めにして扱っていたけど、僕の中では問題は「生き残るために一人を犠牲にして良いかどうか」、「犠牲になるとすれば誰が犠牲になるべきか」、「犠牲にしないのであれば、全滅を許容出来るのか」「誰が責任をとるか」の4つのような気がする。動画的には「犠牲にしてはいけない」けど「全滅は許容できない」派というよく分からない層が居たりして結構不思議な感じ。多分問題意識を根本で共有できていないんだろうけど。
個人的には「犠牲にする」、「年が若く身寄りのない船員」、「船長が責任をとって刑に服す」だと思ったり思わなかったり。犠牲者は次点で「家族がいる船員2人のうちの1人」。

例えば、後半の第一テーマの「殺人を犯した弟を警察に突き出すか?」。これも家族愛が云々以前に、密告した場合の兄の身の保全やら将来に渡る報復への保証を問わなければ議論しようが無いと思うんだけど、そういう指摘は特に無いっぽい。何しろ兄は州議会の議長のちの大学の学長、犯罪者の弟はギャングの親玉。しかも弟から兄に電話がかかってきただけで、弟の居場所ははっきりわかっているわけではない。この状態でそもそもFBIに密告なんて考えられるわけがないだろうに、そうではないらしい。
もし、このタイミングで弟が捕まったら弟の部下からの報復は間違いなく起こるだろうけど兄は公的な人間である時点でどこにも逃げようがない。弟が一発で捕まらなかった時点でもアウト、簡単に密告者の目星は付く。こんな状況で密告することを選択できる方が頭がおかしい。安全のためには、はじめに説明があった通り「『協力しない』と明言したこと」を明言する必要がある。ぶっちゃけ兄の立場ならそれ以外の選択肢はない。これを家族愛なり道徳なりでしか議論できない人はどうしようもない。

また、何かをするべきかすべきではないかを話しをする際には、ちゃんと何を問われているか、その選択後の世界はどうなるかについてもちゃんと考えたほうが良いと思う。
前半3つ目の話題「東大への入学を寄付金の大小で判断してもよいか」で「東大は金があるからその必要はない」とか、「公立の大学だからだめ」とか、「一人くらいなら受け入れてもいい」とか、そういうレベルでしか問題を捉えられていない時点で恥ずかしい。最後の話題「後半3.現世代は前の世代の過ちの責任を負うべきか?」でも「永遠に謝罪する必要はない」けど「相手が忘れるまでは謝罪し続けるべき」とかいう話に矛盾を感じない時点で義務教育からやり直したほうがいいような気がする。

そういう意味では、日本の最高学府らしいところで行われた講演で、この程度の議論しかできないってのはあまりにレベルが低すぎるような気がして悲しくなってきた。一種の思考実験としてももう少しちゃんと状況認識できたほうが人生楽しいのではないだろうか。あとご高説を垂れた後、サンデルさんにちょっとつつかれただけで言葉に詰まるのは議論するのにあまりに誠意が無いんじゃないかな。

もちろん、すべてがそういう話ではないし有益な話題もあったのだけど、日頃の自分への反省と今後の自分への反面教師として特にピックアップして書いておくことにする。
あと、サンデルさんは特に悪くないと思うよ。

以下Twitterで呟いた内容

・この話の流れがヤラセじゃないとすれば、内容や議論はともかくサンデルさんの司会進行能力は半端ないな。数をこなすとある程度類型が見えてきたりするのだろうか
・なんかかっこ付けて、もって回った言い回しをして、どつぼに嵌まっていく様はしゃべり場と同じだよなぁ。コーディネーターのレベルの大切さが思われるな
・あーなるほど。意見を述べるときに建前だけで考えて、具体的な例を思い浮かべられないんだろうな。質問が具体的な例をもった瞬間に口篭るってのは
・マイケル・サンデルのハーバード白熱教室 in Japan を見終わった。大体3時間くらい。全般を通すとサンデルさんのレベルの高さが素晴らしいな。時折、話者の考え不足に呆れ顔するときとか、仕方なしにフォローするお茶目さも素晴らしい。適宜誘導を掛けてるけど、特に違和感もないレベルだし
・あと、この動画はある程度親しい人と一度は一緒に見たほうがいいかもしれない。将来十分に起こりうるだろう考え方の違いによるクリティカルな自体を若干前倒しして被害を減少させることができるかもしれない。逆にこの段階の話で考え方が違ったら相当きついだろうな
・建前と綺麗事を述べる際にはある程度具体的な事例を念頭において話をしたほうが説得力があるし、その問いが何を尋ねているかくらいは想定しておかないとなぁ
・あとスケールの問題を無視して、目先の問題だけを想定して綺麗事で取り繕うと非常に見苦しい。まぁ、ダブルスタンダードを容認する心の広さがあるなら別だけど
・しかし、あれだな。内容自体は義務教育レベルで話をしておくべき話だよな。とは言ってもこれをそのまま見せてもよく分からないだろうし、翻案するのも大変そうだし。やらせるにしても、そこら辺の先生レベルがコーディネータをやったら逆効果以外の何者でもないし、しないほうが世の中のためなんだろう

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