こども風土記 – 柳田國男

感想・レビュー

 民俗学の柳田國男が子どもと遊びについての連載エッセイ。連載当時(1941年 昭和16年)の時点でもおじいさん、おばあさん世代が子どもだった時代の話だったりとずいぶん古い話のはずなんだけど、どこかで聞いたことがあるような遊びが色々出てきて面白い。

こども風土記

こども風土記

鹿・鹿・角・何本

 この本のはじめに紹介されている子供の遊び。目隠しをしている子どもの背中にもう一人の子どもが指を当てて目隠しをしている子が当てられている指の数を答えるという遊び。

 うっすらとおぼろげな記憶だと、そういう遊びをしたことがあるような気がする。なんて言いながらやったんだっけ、その時の節や言い方があったような、なかったような。

 そんなちょっとした遊びの話なのだけど、その導入が奮っている。そもそもアメリカのとある人が柳田宛に「日本にはこういうこどもの遊戯はありませんか?」と問い合わせてきたらしい。どういうことかというと、これと同様の遊びが、アメリカ、ドイツ、イタリア、スウェーデン、トルコ、スコットランド、アイルランド、フランス、ベルギー、オランダ、ギリシャ、セルビア、ヘルツェゴビナ、エストニア、スペイン、ポルトガルにもあるらしく、日本にも同じような遊びがあったら面白いという話らしい。

 そして、その遊びをするときのキーワードが鹿と角といった言葉で、英語だと「How many borns has the buck?」、日本のとある地域だと「鹿・鹿・角・何本」というらしい。

 で、問われた柳田は「あったらなるほど面白いが、どうもまだ聞いたことがないようだ」と一旦返事をして念の為雑誌に投稿して見たところ、思わぬ反響があった。というのが話の導入部。

子供の遊び

 この鹿の話以外にも色々な遊びが紹介されている。

当て物遊び

 子どもに何かしらを答えさせるような遊び。例えば、かごめかごめ。これも最終的には後ろにいる相手の名前を当てる遊び。なるほど、言われてみればたしかにそうだ。

 面白いのは歌の歌詞のバリエーションが色々ありそうなこと。紹介されている例だと「夜明けの晩に つるつるつーべった」と書いてある。別例では「鶴と亀とつーべった」。

その他色々な遊び

 その他にもいろんな遊びが取り上げられているが、子どもが何気なくしている遊びには、古い儀式や神事などが根底にあるという指摘が面白い。

 遊びをたどっていくと、大昔には村の儀式としてやっていたことがベースになっているんだけど、子どもたち自身はそういったつもりは全くなく遊んでいる。おままごとなんかもそういうものらしく、もともとは野外でご飯を作るような、そんな風習がベースにあるとかないとか。ほんまかいなとは思わなくない。
 

節回しがわからない

 この本には、子どもの遊びとその時に唱える詞がいろいろ紹介されているんだけど、問題はどういう節回しで唱えているのかさっぱりわからない。そりゃ、文字だから仕方ないけど、こういうのってYoutubeとかに上がってたりするんだろうか。

鹿遊び、再び

 はじめに出てきた当て物遊び。柳田がアメリカからの問い合わせには「いやー、そんなんあまり聞いたことないっすわ」と返した後の後日談。

 どうもこのの遊びを会報に投稿して聞いてみたところ、全国から自分の地元にも同じような遊びがある、あった、いまもあるといった反響が170件以上あったらしい。そこからはその反響を分析し、バリエーションの整理が始まって、ここまでの話とは別種の面白さが湧いてくる。

 詳しくは本書を見てもらいたいんだけど、言われれば確かに同じような遊びなんだけど、文句も違えば、遊び方も少しずつ違う。地域と多様性なんてものにも目が行くようなお話。

おすすめ

 古い子どもの遊びに興味がある人、民俗学っぽい古い習慣やお話に興味がある人、子どもの時やった遊びが思い出せない人にはおすすめ。

 この本を読んでいると、多様性ってすごいなぁっと思うのと同時に、こういうものを記録していくってのはすげー難しいんだろうなと思う。節回しなんかもそうだけど、子どもの遊びなんてなかなか記録できないしなぁ。

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