ある女がいた。女は年の離れた男との結婚間近だった。金の匂いのする、何か諦めたような結婚だった。
ある男がいた。この男は女を放っては置かなかった。あらゆる手段を持って結婚を阻止しようとし、結果それは成った。男がなぜそんなことをしたのかはわからない。恋愛感情からなのか、義憤に駆られたのか、また別の思いがあったのか。いずれにしろ、男は成し遂げた。
もう一人の男がいた。その男はその目論見を知りながら口を噤んでいた。ある時は目立たないように便宜を図り、ある時は彼の行動に歩調を合わせた。共犯者とは言えない、そうした立場に身を置きながら。男は女のことが好きだったのだろうか、確証はないがおそらくそうだろう。きっとそうだったんろう。
建物が崩壊し、痕跡もなにもかも消えてしまった。折しも振り始めた雨で泥濘んだ道を歩きながら、僕は彼に問いかけた。
「結局、何だったんだろうね」
問いかけた直後、自嘲する。
『そんなこと分かりきってるじゃないか。これだけのことをやってのけるだけの理由なんて…』
彼は何も答えず、ただ隣を歩いていた。