扉と小石

むかしむかし、ある山のふもとに小さな村がありました。村の男たちは山に入っては木を切ったり、狩りをしたりしていました。村の女たちは山から流れてくる川で魚を取ったり洗濯をしたりしていました。村は山と一緒にあったのです。

そんな身近な山でしたが、村人もわからないことがありました。それは扉です。山の中腹にある洞穴へ少し入ったところに鍵のかかった扉があるのでした。この扉は、村の長老がまだ少年のころ、その時の長老がまだ少年のころ、その長老がまだ少年のころよりずっと昔からあったということでした。ですが、村の誰も鍵なんて持っていませんでしたし、開いているところを見たことがある人はいませんでした。

そんなに昔からあったので、村人は誰もその扉のことを気にもしていませんでした。ただ、山の中腹にある洞穴は急に雨が降った時に逃げ込んだり、刈っておいた薪を置いたり、そんな風に使われておりました。

そんなある日、一人の少年が洞穴へ駆けていきました。少年は一人で山に入り薪を取ってくるところでしたが、急に雨に降られてしまったのです。夏の暑い頃合いでしたので寒くはありませんでしたが、雨はどんどん強くなりますし、雷もどんどん大きくなってきます。少年はひとり洞穴の中で雨が止むのを待っていました。

どのくらい待ったでしょうか。雨がちっともやまみません。少年は洞穴の奥のほうにある扉に近づいて暇をつぶし始めました。昔からある扉ですが、じっくり見るのは初めてです。扉はしっかりとした作りで、隙間から奥を見ることはできそうにありません。錠前もピカピカしていて村にあるどの錠前よりきれいでした。ただ、不思議なことに鍵を差し込めるような穴が見当たりません。本当に不思議な扉でした。少年は扉をぺたぺたと触り始めました。そのうち扉はひんやりと冷たく気持ちよかったので、ぺたっと背中をくっつけてうとうととうたたねを始めてしまいました。

そんなときです。引っ張られたような気持ちがして少年は急に後ろに倒れてしまいました。びっくりした少年は目を開けて周りを見回してみましたが、あたりは真っ暗で何も見えません。慌てて起き上がろうとすると、何かに頭をぶつけてしまいました。おそるおそる手を伸ばすとひんやりと冷たく気持ちの良いものに触れました。

少年は手探りでそのひんやりと冷たく気持ちの良いものをペタペタと触り始めました。それはさっきまで背中をぺたっとつけていた扉のようです。どうやらいつの間にか扉の反対側へ転がってしまったようでした。

慌てて扉を開けようとしますが扉を開けることができません。手探りで取っ手を探しても見つかりませんし、押してもびくともしません。少年は扉を叩きながら大声で叫びましたが、誰からも返事はありませんでした。真っ暗ななか、扉の向こう側に閉じ込められてしまったのです。少年はとうとう泣き出してしまいました。

どのくらい泣いたでしょうか。泣きつかれて少し眠ってしまった少年はふと奥のほうに小さな小さな明かりのようなものがあることに気が付きました。それは松明の明かりのようでもあり、月の光のようでもあり、それでいて少しふわふわとしている虫の光のような小さな小さな明かりでした。

少年は光に向かって歩き始めました。暗くて何も見えませんでしたが、地面はなめらかでしたのでこけたり、けがをしたりすることはなさそうです。それでも走ったりせず、一歩一歩確かめるように光に向かって歩き始めました。

どのくらい歩いたでしょうか。小さかった光は少しずつ大きくなり、光のあるほうから風も吹いていることに気が付きました。少年は我慢できずに走り出しました。走るたびに小さかった光は少しずつ大きくなり、外の風景も見えるようになってきました。

外に出た瞬間、少年はあまりのまぶしさに目がくらんでしまいました。少しずつ目を開けると、そこには小さな泉がありました。泉からはこんこんときれいな水が湧き続けていて、そこから小さな川が流れでていました。少年はその川の水を飲んで渇きをいやし、足を洗って疲れをとりました。

やっとのことで一息ついた少年は、はてここはどこだろうと考え始めました。村は山と一緒にあったのでたいていのところは知っていましたし、こんなきれいな泉なら子供たちなら毎日でも遊びに来たいだろうと思うのに、こんな泉は見たことも聞いたこともありません。

そんなときです。少年は声を聴きました。いや、それは声というより、どこからか聞こえてくる木の葉の擦れ合う音のような、吹き抜ける風の音のような、泉から湧く水の音のような、そんな音のような声でした。

声は少年に語り掛けます。あなたはなぜここに来たのですか?あなたはその人なのですか?いまはその時なのですか?と。少年はわけが分かりませんでしたが、ここに来た経緯をどこへ向かってでもなく話始めました。

声は少年に語り掛けます。あなたがここに来るには少し早かったようです。今からその村に帰して差し上げます。そこの祠の中にある石を一つだけ持っていきなさい。そしてその小さな川にそってしばらく歩いていけばあなたの村に帰り着くことができるでしょう。

少年があたりを見渡すと、確かに泉のそばに祠がありました。その祠は村にあるような祠とはぜんぜんちがう形で、ほんとうに小さな、小さな祠でした。その祠の中には石がたくさん置いてあります。大きい石から小さな石、きれいな石からそこらへんに落ちていそうな石、いろいろな石がありました。

声は少年に語り掛けます。石は一つだけしか持って行ってはいけません。川に沿って歩くときは川の反対側にわたってはいけません。石を二つ以上持っていけば、川は途中で途切れてしまいます。川の反対側に渡ってしまえば、二度とこちら側にたどり着くことはできません。

少年は声にお礼とお別れを言った後、言われた通り、少し青みがかった小さな石を一つだけ持って、川づたいに歩き始めました。別れ際、声が少年に語り掛けてきました。あなたはまたもう一度ここに来ることになるでしょう。その時は、その石を持って、あの扉までいらっしゃい。

少年はなんのことだかわかりませんでしたが、もう一度お礼を言って歩き始めました。少し青みがかった小さな石を握りしめ、川の反対側に渡らないよう気を付けながら、ゆっくり下っていきます。

しばらく歩いたところで、さっきのはいったい何だったんだろう、あの声はいったい誰の声だったのだろう、とふと考えた瞬間、気が付くと少年はあの洞穴の鍵のかかった扉の前で目が覚めました。少年はうたた寝していたようです。

雨はすっかり止んでいて、晴れ晴れとした空が広がっていました。そして、びっくりした少年の手には少し青みがかった小さな石が一つだけ握られていました。

お題の目は、まさかりみたいなの、鍵みたいなの、意匠のあるガントレットみたいなのでした

三題噺とストーリーキューブス

昔からお話を作りたい欲というのは昔から少なからずあって、とは言ってもなんの当てもないなぁと思ってたところに出会ったのがストーリーキューブス。

まぁ大枠で言えば、何らかのアイコンが割り振られたサイコロをN個振って、出た目に書いてあるアイコンから発想して物語を作るという子供向けの知育玩具なのです。で、ぱっと見のやり方には9個のサイコロを振って、出た目に書いてある9個のアイコンからストーリーを作りましょうなんて書いてあるのだけど、結構難易度が高い。そんな9個も要素を使った物語なんてよく思いつかない。で、仕方ないからサイコロは3個にして遊んでいたりする。

このブログの記事にもそうやって作った?小話をいくつか書いてたりするんだけど、なんかこう、それっぽいやり方とかないのかなぁッと思ってて見つけたのがこれ。「三題噺」。

元来、トリを取れるような真打ちだけがやったもので、客席から3つ「お題」を出してもらい即席で演じた。 出して貰う「題」にも決まりがあり、「人の名前」「品物」「場所」の3つで、どれかを「サゲ」に使わないといけなかった。
初代三笑亭可楽が始めたとされており、幕末には盛んに行われた。三題噺を元にした演目の代表作としては『芝浜』が挙げられる。三遊亭圓朝がある時の寄席で挙げられた題目が「酔漢」「財布」「芝浜」の3つで、これを題目として演じたのが『芝浜』の原形といわれている。この他『鰍沢』も三題噺を元にした演目の代表作である。
三題噺落語の創作には、かなりの発想力やセンス、またそれを演じるための技術が求められるため、誰もができるわけではない。近年では、三遊亭白鳥や柳家喬太郎などのほか、柳家わさびなども定期的に三題噺を演じる会を開いている。
現代では、落語のみならず、漫才やトーク番組などでも応用されて用いられている。また、大手マスコミ等の採用試験の問題として出題される。
三題噺 - Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E9%A1%8C%E5%99%BA

Wikipediaを見ると、どうやら落語の一形態のようで、客席からもらった3つのお題から即興で落語を作るというものらしい。なんとなく自分がやってたことに近いし、なんか3つってのもお揃いな感じがある。ただ、どうもこの3つの選び方っていうのには決まりがあるらしく、「人の名前」「品物」「場所」の3つで、どれかを「サゲ」に使わないといけないらしい。サゲってのは要するにオチ。

っていうか、『三遊亭圓朝がある時の寄席で挙げられた題目が「酔漢」「財布」「芝浜」の3つで、これを題目として演じたのが『芝浜』の原形といわれている』って書いてあるけど、あんな話を、そんな即興でできちゃうってどういうことなの、すごくね?

さて、なるほど、出てきた目のアイコンの解釈を今までは適当にイメージしてやってたけど、それぞれ3つのテーマに割り振ってしまうといいのか。ちなみに、Wikipediaでは「人の名前」って書いてあるけど、どうやらこれは「登場人物について」くらいの意味らしい。流石に人の名前だと使いみちがないだろう。まぁ、次に暇々考えるときには、この三題噺のことを思い出して、ちょっと試しにやってみようかな。あれもぼんやり考えるだけならいいんだけど、いざ文字に起こそうとすると大変だからいつになることかわからないけどね。

Web会議で注意しないようにすること

鏡というのは考えると不思議なもので、普通は見ることがない自分の顔を見ることが出来たり、自分の後ろの景色を見ることができたりいたします。普段、鏡を見るときは化粧をしたりなんだと全体ではなく鏡のごく一部をじっと見ていることが多いと思いますから意識はしておりませんけれども、自分の後ろの景色なんてのは鏡がない時分はまず見ることができませんでした。

そんな鏡でございますから鏡の中には悪魔が住む、合わせ鏡など鏡にまつわる怪しい話はいろいろとございまして。昔から鏡には不思議な力があると思われておりました。

さて、昨今はテレワークだなんだとWeb会議ってものをする機会が多ございます。ですが、Web会議は妙に疲れる、服装も自由がきいて、自宅なんかの気安い場所でやってるはずなのに妙に疲れるなんてことをよく聞きます。

疲れる理由はいろいろと研究なんてのがされていて、例えば自分の顔をずっと見続けないといけないからなんて説や、相手の反応がわかりずらいので集中力が必要になってしまうって説もあったりいたしますが、本当は違うんだという話もある。例えば普段は見なくていい自分の後ろをずっとみてしまうことが疲れる原因ということでございます。

どういうことかと申しますと、Web会議に使っているWebカメラ、なんとなくみんな風景を撮影するカメラと同じようなものだろうと思っておりますし、何やら現代的な機械のように思っておりますけれど、インカメラってのは要するに鏡でございます。自撮りってのはカメラの中の自分がカメラの外にいる自分を見つめている。鏡の中の自分が鏡を見ている自分を見つめているように。機械だなんだってのをうっちゃって考えれば、それはもう鏡です。

ところで、人間は見るべきものを無意識に制限することがございます。たとえば集中していると周りが見えなかったり、嫌なもの嫌いなものが視界に入らなかったり。でも、それは全く見えていないというわけでございません。頭の中では見えているですが、それから無意識に意識をそらしているだけでございます。

たとえば視界の端がふっと気になって目を向けても何があったのかわからない、そういったことはございませんでしょうか。それは目から入った信号が頭ん中の脳みそにまでは届いて頭の中ではいったん見えている、見えていてそちらに注意を向けたのだけど、それを見たくなくて無意識的に意識をそらしてしまった状態ということでございます。そういう時は視線をそのままにせず、すぐに別のところを見たほうがよろしい。そうしないと見たくないものを見てしまうかもしれません。

こういう話は昔からあって、妖精と目が合うと言ったりする。視線をふと向けた先で妖精と目が合う。ここでいう妖精ってのはティンカーベルみたいなかわいらしいものとは限りません。妖精ってのは書いて字のごとく、妖しい精霊と書くんでございます。

そういう得体のしれないなにかと目が合ったときは、そいつに目が合ったと気が付かれないようにしないといけません。じっとあいての目を見つめたり、声をかけたり、驚いたりしてはいけない。そうしないとみられたことに気が付いたそいつは…。

気が付かれないようにしないといけないとはいっても急にあからさまに眼をそらしたりすると気づかれてしまいますので、例えば「あれ?時計がないな、こっちにもないか、あっちかな」といった独り言なんて言いながら別の場所に何気なく目をそらすのがよろしいそうでございます。

ところで、Web会議なんてものをやっていると、画面の端っこにある自分の顔が映ってる小さな枠が、妙に気になることはございませんか。別に何が映ってるわけでもない、映っているのは自分の顔と後ろが映っているだけの小さな枠のはずなんですが、何か妙に気になってしまう。

そういう時は気を付けたほうよろしゅうございます。いつもは絶対に見ることができない自分の後ろ、後ろにあって気が付いていない得体のしれない何か、頭が無意識的に見ないようにしている何かが気になっているのかもしれません。決してじっと見つめたりしないようお願いもうしあげます。

ローリーズ・ストーリー・キューブス (日本仕様)

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  • 発売日: 2013/08/08
  • メディア: おもちゃ&ホビー

今回もストーリーキューブ全然使ってないけど、まぁいいか。

砂の水底にて

ここしばらくの天気で川の水位がどんどん下がって底が見えてきている
底の砂地の中にぽつぽつとこの間まで川だった水たまり
少し生臭い匂い

水たまりの中では無数の小魚がぴちぴちと泳いでいる
動きの早い小魚たちは少し前まで川だった水たまりの中をすごい勢いで行ったり来たりしている
きっと川に戻るための道を探しているんだろう。砂になった水底で

もし小魚たちに神様がいたとしたら、その神様は彼らに何を語りかけるんだろう
奇跡?救い?祈り?破滅へのみらい?来世への願い?
彼らは、その神様に何を祈り、何を捧げ、何を誓うんだろう

僕は手元で今週の天気を確認する
昨日は晴れだった、今日は曇り、明日は夕方から雨が降り、明後日には台風が来るらしい
ひどい台風は少し困るな、と僕は思う

ローリーズ・ストーリー・キューブス (日本仕様)

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  • 発売日: 2013/08/08
  • メディア: おもちゃ&ホビー

今回はストーリーキューブ全然使ってないけど、まぁいいか。

いつも取引している会社からWeb会議の招待があった。

いつも取引している会社からWeb会議の招待があった。

どうも急いで連絡しないといけないことがあるらしいけど、担当営業が休みとのこと。急遽代理の営業の人とのミーティング。

送られてきたWeb会議システムのURLにアクセスし、認証コードを入力すると、スーツ姿の人が二人。面識はないが上司と代わりの営業の人のようだ。

先方から「急に連絡して申し訳けありません。担当営業がお休みを頂いていて」。

「山田さんはどうされたのですか?」と僕。「いえ、実家でご不幸があったようで、申し訳ないです」と担当営業である山田さんの上司。

「さて、今回急にWeb会議をお願いしたのは、あーまずは資料をお送りしますね」資料はZipで送られてくる。「パスワードはこちらです」

この日本的なパスワードのやり取りはなんの意味があるんだろう。ホント、セキュリティについてわかってるのかなぁっといつも思う。

「ファイル確認できますか?」、「ファイル開きました。見積もりですかね?」、「ですね、こちらでも確認できました」

そんなやり取りをしていると上司の電話が鳴って急に慌ただしくなった。

電話を切ったあと上司の人が「申し訳ないです。急な対応が入ってしまったようで…」。

「いえいえ、この打ち合わせどうしましょう?」。

「急にセッティングしていただいて申し訳ないですが、改めてリスケしてもよろしいですか?日時の候補を後で送らせていただきます」

「それでは、よろしくおねがいします」

といってWeb会議を抜ける。ところであの見積もりにあった製品は、どこで使ってたかな、あんな製品使ってなかったような…。

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  • 発売日: 2013/08/08
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今回はストーリーキューブ全然使ってないけど、ありそうで、なさそうな小話ということで一つ。

カニとピカピカ

むかしむかし、あるところ、海の底のあるところにカニたちが住んでいました。カニたちは両手のハサミでご飯を食べたり、右に行ったり左に行ったりしながら暮らしていました。時には大きな魚から隠れたり、大きなハサミを上に上げたりしたに下げたりしたりもしていました。

そんなカニたちの中に、いつも空を見上げているカニが一匹おりました。そのカニは、一日中空を見上げていて、ご飯を食べるのも右に行くのも左に行くのも、大きな魚から隠れるのも、大きなハサミを上に上げたり下げたりするのも、空を見上げながらぼんやりしながらしていました。

カニはぼんやり空を見上げながら、なんで空はキラキラしてるんだろう、空はなんであんなに明るいんだろうと思っていました。でも、仲間のカニにその話をすると、ちゃんと下を向いて歩いてないないとご飯を見つけられないよとか、大きな魚から逃げるときはぼんやりしてないで急いで逃げないといけないよとか、お前が上ばっかり見ていてくれるおかげで安心してご飯を食べられるとか言われるのでした。

カニがいつも通りぼんやり空を見ながら、なんでみんな空のキラキラが気にならないんだろうと思っていると、突然、空からピカピカしたものが下りてきました。ピカピカしたものはカニのハサミと同じくらいでしたがそれよりもずっと細くて曲がっていました。

なんだろうと見ていると、いつもはカニを食べようとしてくる大きな魚かそのピカピカしたものに近づいていきました。その時です、大きな魚はピカピカと一緒に勢いよく空に上って行って見えなくなりました。

カニはあまりに急なことにびっくりしてしばらくぼんやりしていましたが落ち着いてくるとだんだんに分かってきました。きっとあのピカピカは空の上から下りてきて空に上っていくのだろう、あの大きな魚はきっと空に連れて行ってもらったに違いない。なんて素晴らしいことだろう、あれに掴まればきっと僕もあのキラキラする空に連れて行ってもらえるに違いない!

それからカニはぼんやり空を見上げるのはやめて、いつピカピカが空から下りてきてもいいようにじっと空を見つめるようになりました。そんな様子を見て仲間のカニたちは、そんなことよりちゃんと下を向いて歩いてないないとご飯を見つけられないよとか、大きな魚から逃げるときはぼんやりしてないで急いで逃げないといけないよとか、お前が上ばっかり見ていてくれるおかげで安心してご飯を食べられるとか言ってきましたが、カニはもう気にしませんでした。

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ローリーズ・ストーリー・キューブス (日本仕様)

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2つの村の配達人

むかしむかし、あるところに手紙の配達人がいました。手紙の配達人は、あっちの村とそっちの村を行き来して手紙や荷物を運ぶことを仕事にしていました。その仕事は配達人のおじいさんのおじいさんの、そのまたおじいさんから、ずっとずっと続けていた仕事でした。

配達人が行き来していたあっちの村とそっちの村は少し離れていましたが大変仲が良い村で、それはずっとずっと前からでした。あっちの村の娘さんがそっちの村にお嫁に行ったり、そっちの村のお父さんの弟があっちの村にいたり、二つの村はずっとずっと仲良しでしたので手紙を配達する人はいっつも忙しくしていました。

そんなある日、配達人がいつもの通りそっちの村からの手紙をあっちの村に届ける途中、二つの村のちょうど真ん中くらいに差し掛かった時、道端になにかが落ちていることに気がつきました。配達人はなんだろうと落ちているものに近づいてみるとそれは何かが入った袋でした。

配達人が中を開けてみると袋の中には古ぼけた箱が一つと「こっちの村の村長さんへ」と書かれた一通の手紙が入っていました。配達人は「この近くにはこっちの村なんてのはないはずなんだけどなぁ」っと不思議に思いましたが、手紙をそのままにはできなかったので、一旦袋をもってあっちの村へ配達に向かいました。

あっちの村に着いた配達人は、いつも通り配達を終わり、村長さんのところを訪ねました。村長さんはにこやかに配達人を迎え入れると「配達人さんやどうかしたのかい」と尋ねました。配達人は、村に来る途中で古ぼけた箱とおかしな手紙の入った袋を拾ったことを話しました。

村長さんは手紙を読んで「たしかにそんな村はこの辺にはないはずだがなぁ、とりあえず箱を開けてみよう」と言い、古ぼけた箱を手に取りました。村長さんが箱を開けててみると中からは宝石がたっぷり使われた首飾りが出てきました。

配達人はびっくりして村長さんに言いました「僕は盗んだりなんかしていません、信じてください」、村長さんはわかっているよと声をかけた後、真面目な面持ちでこう言いました。「この荷物はこの村とそっちの村の間くらいに置いてあったそうだが、正確にはどちらに置いてあったのかね?」。配達人は言っている意味がわからずキョトンとしてしまいました。

村長さんはもう一度「荷物はどちらの村側に置いてあったんだね?」と言いました。困ったのは配達人です。荷物は二つの村のちょうど間くらいにありましたので、どちら側とも言えません。村長さんは重ねて「ほんの少しばかりかもしれないが、この村に近い方にあったんじゃないかね?もしそうなら手紙にある『こっちの村の村長』とは私のことなんじゃないかね?」と言いました。

配達人はだんだん分からなくなってきました。そう言われればこの村に近い方にあった気がするし、それならこの荷物は村長さんに渡してしまって問題ないような気がしてきます。悩んだ配達人は村長さんに「この村に近い方にあったような気がしますので、荷物は村長さんにお渡しします」と言いました。村長さんはうなずくと「配達ごくろうさま、これからもよろしくね」と言いました。

配達人は村長さんの家を出で、今度はそっちの村へ配達に出発しました。二つの村は仲が良いので配達する手紙はたくさんあります。

配達人がそっちの村に近づくと、村の様子がいつもと少し違うことに気がつきました。村の入り口にみんな集まって、どうやら誰かを待っているようです。配達人が到着するとすぐに村長さんの家に行くように言われました。家につくと村長さんがにこやかな顔で出迎えてくれながらこう言いました。「なにか私に荷物があるのではないかね」。

配達人は「今日は村長さん宛の手紙はありません」と答えると、村長さんは険しい顔になって「『こっちの村の村長へ』と書かれた手紙と古ぼけた箱だよ」と言いました。配達人はびっくりしてしまいました。なんで村長さんはそのことを知っているんだろう、本当はこの村の村長さん宛ての荷物だったんだと思いました。村長さんは続けて「あの荷物はこの村側にあったと思うんだが、本当にあっちの村側にあったかね?配達人さんの勘違いだったんじゃないかね?」。

配達人はだんだん分からなくなってきました。そう言われればこの村に近い方にあった気がするし、それならこの荷物は村長さんに渡さないといけなかったかもしれないません。配達人は正直にそう言いました。

村長さんはにこやかな顔に戻って「そうだろうとも。私は配達人さんを疑ったりなんかしちゃいないよ。きっと何か誤解があったんだろう。いまあっちの村の村長さんに手紙を書くから持っていってはくれないか」と言いました。配達人はほっとしてわかりましたと答えました。

配達人は村長さんの家を出で、今度はあっちの村へ配達に出発しました。二つの村は仲が良いので配達する手紙はたくさんあります。

あっちの村について村長さんに手紙を渡すと、それを読んだ村長さんの顔がだんだん怒った顔になっていきました。「これはどういうことなんだ。すぐに手紙を書くから急いで配達してくれ」。配達人さんは他の人の手紙も集めずにすぐにそっちの村の村長さんへの手紙を配達するために出発しました。

手紙をそっちの村の村長さんに渡すと村長さんは怒って急いで手紙をどどけるように言いました。その手紙をあっちの村の村長さんに届けると、やっぱり村長さんは怒って急いで手紙を届けるように言いました。そういったことが何回も何回も繰り返されました。

ところで、村長さん同士の手紙のやり取りが続いているうちに、2つの村の様子がだんだんと変わってきました。仲が良かった2つの村の人たちは、だんだんお互いの悪口を言い合うようになりました。お互いの村の悪口だけではなく、同じ村の中の人同士でも悪口を言い合うようになりました。あんまりに悪口を言い合うのですから、みんな嫌になって次第に口も効かなくなりました。

配達人はだんだんと手紙を配達するのが嫌になってきました。せっかく手紙を届けても怒ったような顔になるし、村の人たちも配達人は相手の村の味方に違いないと言って悪口を言ってくるようにもなったのです。配達人は悲しくなりました。こんな悲しい思いをするのなら手紙の配達なんかやめてしまいたいと思ったのです。手紙の配達の仕事は配達人のおじいさんのおじいさんの、そのまたおじいさんから、ずっとずっと続けていた仕事でした。大好きだった仕事でしたが、今はもう好きではありません。

ある日、とうとう配達人は手紙の配達をやめてしまいました。仕事をやめた配達人はあっちの村とそっちの村のちょうど真ん中くらいに家を立てて一人で住み始めました。なにしろ両方の村から悪口を言われるようになったので、どちらの村にも住むことができなくなったからです。それは寂しいことでしたが、怒った顔を見なくていいし悪口を聞くことも言われることもがなくなりました。

しばらくしたある日、配達をやめた配達人のところに手紙を配達してほしいとあっちの村から青年が訪ねてきました。配達人がもう手紙の配達はしていないことを伝えたのですが青年は、子供が生まれたこと、そっちの村にいるお嫁さんのお父さんお母さんにそのことを伝えたいこと、今では2つの村を行き来するにもみんなが怒るのでまだ伝えられていないことを悲しそうに話してくれました。

配達人は自分はもう配達はしていないけど、そっちの村に行く用事のある旅人がいれば手紙を届けるようお願いすると約束しました。青年はお礼を言いながらあっちの村へ帰っていきました。

しばらくしたある日、配達をやめた配達人のところに手紙を配達してほしいとそっちの村からおじいさんが訪ねてきました。配達人がもう手紙の配達はしていないことを伝えたのですがおじいさんは、娘があっちの村に嫁に行ったこと、もともと体の弱い子だったから元気にしているか心配していること、今では2つの村を行き来するにもみんなが怒るのでどうしているか心配なことを悲しそうに話してくれました。

配達人は自分はもう配達はしていないけど、あっちの村に行く用事のある旅人がいれば手紙を届けるようお願いすると約束しました。その代わりそっちの村に帰るときに自分の代わりに手紙を届けてほしいとお願いしました。おじいさんは手紙を受け取るとお礼を言いながらそっちの村へ帰っていきました。

そんなことが何回か続いたある日、配達人のところに若い子連れの夫婦と老夫婦が訪ねてきました。2つの夫婦は配達人の家で夜遅くまで語り合い、とても名残惜しそうに翌日お互いの村へ帰っていきました。

それからというもの2つの村のいろいろな人たちが、あっちの村とそっちの村の真ん中くらいにある配達人を訪ねてくるようになりました。はじめは配達人の家で迎えていたのですが次第に来るひとの数も増えてきて、入りきれなくなりました。そうこうするうち配達人の家の近くに宿ができ、お店ができ、だんだん引っ越してくる人ができてきました。あの若い子連れの夫婦と老夫婦も引っ越して一つのうちに住むようになりました。

あっちの村ではだんだん引っ越していく人が増えてきて少しずつ村が寂しくなっていきました。そっちの村でも同じように引っ越していく人が増えて生きて少しずつ村が寂しくなって行きました。それでも2つの村はお互いの村の悪口をいうことはやめませんでしたし引っ越していく人の悪口も言うようになりました。ですが、不思議なことに配達人の家の近くに引っ越した途端、みんな悪口を言わなくなりました。それは配達人の家の近くはあっちの村でもそっちの村でもないからでした。

配達人の家の近くはだんだんとりっぱな村のようになっていきました。2つの村から引っ越してくる人は増えていく一方でしたし新しいお店や新しい旅人もたくさん来るようになりました。そっちの村の村長さんも引っ越してきました。引っ越してきた村長さんは配達人に今までのことをあやまり、配達人に2つの村の間に新しくできた村の村長になるようお願いしました。周りに引っ越してきた人たちも賛成し、配達人はあっちの村でもないそっちの村でもないこっちの村の村長になりました。

そんなある日、こっちの村の村長になった配達人のところに一人の若者が訪ねてきました。若者はあっちの村の村長の息子であること、父親であるあっちの村の村長が病気でなくなったこと、配達人に謝りたいと言っていたことなどを伝えました。配達人は若者にこれからどうするのか、こっちの村に引っ越してはどうかと言いました。

若者は首を横に振りこれから旅に出る予定ですと答えました。配達人が旅立つ若者を見送ろうとすると、若者はここでで結構ですといい旅立つ自分には不要なものだからと一つの袋を配達人に渡し旅立っていきました。

袋の中には古ぼけた箱と一通の手紙が入っていたということです。

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ローリーズ・ストーリー・キューブス (日本仕様)

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傾いた天秤

 昔々あるところに、今では名前も伝わっていない小さな国がありました。その国では、王様の前の、そのまた前の、もっと前の、この国を作った王様の時代から伝わった天秤がありました。

 天秤は最初の王様が「この国は公平な、しっかりとした良い国になりますように」と願って作らせたものでしたので、みんながいつでも見られるようにお城の玄関に飾ってありました。そうしてこの小さな国は、最初の王様の、その次の王様の、そのまた次の、もっと次の王様まで小さいながらもしっかりとしたお城と、優しい人たちがすむ良い国でした。

 そんなある日、お城で働く女がほんの少しですが天秤が傾いていることに気が付きました。しかし女はすぐにきっと見間違いだろうと忘れてしまいました。しばらくして、今度は子供が天秤が傾いていることに気が付きました。また別の女が、別の男がそうこうするうちに、みんな天秤が傾いていることに気が付き始めました。

 困ったのは王様や大臣たちです。天秤はお城の玄関に飾ってありましたので、この天秤が傾いているとひどく格好が悪かったのです。なんだか国自体が傾いているような居心地の悪さがありました。さっそく王様や大臣たちは、この傾いた天秤をどうしたらいいかを相談し合いました。

 ある人は天秤が傾いたのは天秤が壊れたからに違いない、早速職人を呼んで修理させようと言いました。ですが最初の王様の時代から受け継がれた由緒ある天秤を身分の低い職人に触らせるのは良くない、分解させて壊れたらどうするといって反対されました。

 別のある人は天秤が傾いたのなら傾いた方の反対側にほんの少しだけ重りを入れれば元の通りになると言いました。やってみると確かに天秤は釣り合いの取れた元の通りの天秤に戻りましたので、王様と大臣たちはほっと胸をなで下ろしました。

 ですが、しばらく立つとまた少しずつ天秤が傾いていきます。王様と大臣たちは天秤が傾くたびに少しずつ重りをのせていきました。重りを乗せると天秤は元通りの釣り合いの取れた天秤に戻りましたが、やっぱりしばらくすると少しずつ傾いていきました。

 ある人が天秤が傾いたのは誰かがいたずらしたに違いない、今後いたずらされないように兵士に厳重に監視させようと言いました。それから天秤は兵士たちに厳重に監視されましたがいたずらをしているところを見つけることはできませんでした。

 少し傾いては重りをのせ、少し傾いては重りをのせと繰り返すたびに、だんだん王様はこの天秤が疎ましく思えてきました。天秤が傾くたびに国がだめになっていくような気がしたのです。

 とうとう業を煮やした王様はこの天秤をお城の玄関から鍵のかかった誰も使わない部屋に移してしまいました。天秤のない玄関をみて王様は久しぶりにせいせいした気持ちになりました。大臣たちも傾いた天秤のことを気にする必要もなくなりやっと安心した日々を送れるようになりました。そうしてみんなは天秤のことなどすっかり忘れてしまいました。

 ある日、そんな噂を聞いた旅人がこの国にやってきました。旅人はその天秤を是非みたいとみんなに聞いて回りましたが、もうその天秤がどこにあるのか知っている人はいませんでした。みんな傾いた天秤のことなんかすっかり忘れてしまっていたのです。結局旅人は天秤を見ることを諦めて、小さな国を後にしたのでした。

 旅人はやっぱりその天秤が気になって、何年も経ったあと、もう一度その小さな国を訪ねてみたそうです。ですが、次に訪ねたときには、あのしっかりとしたお城も優しい人たちも見つけることはできませんでした。ですが、きっと傾いた天秤だけはどこか人知れずしまい込まれていたままなんでしょうということでした。

ローリーズ・ストーリー・キューブス (日本仕様)

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大きな塔と小さなお社

むかしむかしあるところに、とても大きな塔がありました。近くの街の長老も一体いつからあるのかわからないほど昔からある、見上げれば首が痛くなるような高さの塔でした。

いつの頃からか、その塔のてっぺんに登れば世界のすべてを知ることができるとまことしやかに語られはじめ、多くの人たちがてっぺんを目指して塔を登っていきましたが誰も登れませんでした。

塔に入って階段を登ろうとすると、いつの間にか元いた場所に戻ってしまうのです。何人も何人も試してみましたが、やっぱり戻ってしまいます。

ある人たちは塔の外側から登ろうとしましたがだめでした。ある人たちは塔の階段を使わずに登ろうとしましたが、やっぱりだめでした。誰も彼も登れなかったので、次第に塔に登ろうとする人たちは減っていきました

大きな塔に登る人たちがだんだんといなくなり、一年たち、十年たち、数十年たち、塔も蔦で覆われて、大きな塔は本当に誰からも忘れられてしまいました。

そんなある日、もうすぐ日も暮れようかという頃合い、遠くから一人の青年が歩いてきました。青年は、街から街、村から村、山から海、東から西、南から北へと渡り歩く行商人でした。

青年は塔に着くなり大きなため息をつきました。日暮れまでに次の村まで辿り着けそうになかったので、なんとか一晩休める場所をと急いで歩いてきたのに、そこにあったのはなんとも不気味な塔だったのです。

青年は一人つぶやきました。こんな不気味な場所で夜を明かすなんてそんな怖いことはない、いまからでも別の場所を探そうか。青年は一人つぶやきました。もうすぐ日も暮れる、今日はここで我慢しよう。

青年は大きな塔の周りを歩きはじめました。どこか風が防げるような場所を探していたのです。塔の中も少し見てみましたが、薄暗く、とても安心して眠れそうにありません。

しばらく塔の周りを歩いていましたが、ふと小さな社があることに気が付きました。それは本当に小さなお社で、こんな大きな塔のそばにあるには少しばかり不釣り合いな、そんなお社でした。

青年はお社に手を合わせて、お祈りをしました。自分は行商をなりわいとしていること、今日は偶然ここで夜を過ごすことになったこと、心細いのでぜひ見守ってほしいこと、そんなことをお願いしたのです。最後に晩御飯のなかからほんの少しのお供え物をして、今日はここで寝ることに決めました。

少し無理をしたせいでしょうか、青年はすぐに深い眠りに落ちました。

気がつくと青年はとても高い場所にいました。そこからは地平線が丸く見えるほど、とても遠くまで見ることができました。あっちの方には山が見え、あっちの方には海が見え、街や村、それらをつなぐ道など色んなものが見えました。

青年は、なんてきれいなんだろう、僕はどっちからきたんだろう、次はどこへ行くんだろう、思わずそうつぶやきました。ふと気がつくと、すぐそばに女の人が立っています。青年はびっくりして、今のつぶやきを聞かれていなかっただろうかと少し恥ずかしい気持ちになりました。

あなたの知りたいことはなんですか、女の人は青年にそう尋ねました。青年はびっくりしました。びっくりしていると女の人はもう一度、あなたの知りたいことはなんですか、と尋ねました。

知りたいことはいくらでもありました。どこに街に行けば安く品物を仕入れられるだろう、どこの街に行けば高く売れるだろう。あの村では何が必要なんだろう、今年の秋に収穫の多い村はどこだろう、どこになに持っていけば売れるだろう。そんなことが頭の中でぐるぐると回っていました。

そんなときでした。ふと青年が顔を上げると、つい数日前こ行商で訪れた村が目に入りました。隣町に住む孫娘からあずかった荷物を届けたおじいさんは元気かな、すごく喜んでいたな。子供が生まれたからと気前よく買ってくれたあの夫婦は元気かな。一晩泊めてもらい面白い話を聞かせてくれたおばあさん。

そういえばおばあさんからは次に行く街に住む息子さん夫婦に届け物をしてほしいと頼まれていたな。なんでも冬の間にこしらえた織物で、お嫁さんは裁縫がとても上手でと色々聞かされたな。いつの間にか青年の頭の中にはそんなことがとめどなく思い出されました。

ふと我に返ると、女の人が少し困ったような顔でこちらを見ていることに気が付きました。恥ずかしくなった青年は、少しだけ俯いたあと、知りたいことはいっぱいあります、でも、それを聞いて済ましてしまうのはすごくもったいないと思うのです。だから僕は次の街に行こうと思います。荷物を待ってくれている人がいるんです。と答えました。

意識が遠くなる中、女の人が少し困ったような、少し嬉しそうな顔をしていたような、そんな気がしました。

朝、青年は目を覚ますと身支度を整え、お社に向かってお祈りをしました。荷物を準備し、預かった織物を確認すると、もう一度だけお社にお祈りをして、青年は次の街へ旅立っていきました。

あとには大きな塔と小さなお社が朝日を浴びて輝いていました。

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